pillow talk
「・・・っう」
自分の内部を探り、沈んでいた熱を掘り起こした指が抜け落ちる感覚に不二はため息をこぼし、軽く身震いした。
「・・・先輩・・・」
ほんの少し掠れた声で自分を呼ぶ声にうっすらと瞳を開ければ、リョーマが自分を見下ろしている。
いつも挑むようなその瞳はこの瞬間、少し不安げな優しい色を帯びる。
その顔は年相応の“少年の顔”で、少しばかり不二の胸を疼かせる。
彼から与えられる数々の快楽。でもそんな淫らな悦びを与えるには彼はまだひどく幼いのだ・・・
そんな罪悪感から逃れようとしてつむった瞳に羽根のように落とされる唇。
そのままついばむように自分の唇に触れてくるリョーマの唇に軽く歯を立て、うっすらと口を開けば、
それに誘われるようにリョーマが深く口付けてくる。
何もかもを絡め取ってしまうような口づけに酔いながら、不二は次に自分を侵食するだろう熱い熱を思い、
甘い吐息をこぼす・・・
・・・でも今日は少しばかり様子が違っていた。
「・・・ねぇ、先輩。」
唇を離した後、リョーマが不意にそう呼びかけたのに不二がうっすらとまぶたを開ける。
「・・・オレの事・・・好き?」
「・・・え・・・」
その唐突な言葉に、思わずぱっちりと目を開けた不二にリョーマは畳み掛けるように問いかける。
「好きって言ってよ。」
「越前・・・?」
そう性急に迫るリョーマに目をしばたく不二。
「何でそんな・・・?」
「いいから。」
リョーマはその手を不二から解くと、彼と密着させていた身体を起こして再び不二を見下ろす。
「言ってくれなきゃ・・・このままだよ?」
放っておかれる物足りなさに、無意識のうちに腰を蠢かせていたらしい。リョーマは薄い笑みを浮かべ、
そんな不二を見下ろしてくる。
「・・・ねぇ・・・?」
「・・・・・」
そんなリョーマを不二は熱のこもったままの潤んだ瞳でいぶかしげに見上げる。
そう言うのは簡単だ。でも何故いきなりそんな事を・・・?
でも、このままでいけば言わざるを得なくなるようだ。
身体にくすぶる熱が不二を急かすように煽り続けており、続きをせがんでいる。
悔しくはあったが、一旦はその甘美な誘惑に負けかけ、開きかけた唇がふっと何かを思いついたのか、
ゆっくりと微笑みの形へと変わる。
「?」
うっすらと口元に笑いを浮かべ、からかうような目で自分を見上げた不二に訝しげな瞳を向けたリョーマは、
次の瞬間、腕の中の恋人が甘い声を上げ、喉を逸らしたのに目を見開く。
「先・・・輩?」
何が起こったかわからず、不二の身体を見下ろしたリョーマがそれを見て軽く息を飲んだ。
不二が下半身に手を伸ばし、勃ち上っている自分自身に指を絡めている。
「・・・んっ・・・く・・・」
顎を仰け反らせて、ため息のような喘ぎ声を漏らしながら自らを慰め始めた不二にリョーマは言葉を忘れてその姿に見入った。
切なそうに眉を寄せ、その頬をほんのり上気させ、軽く開かれたその唇はうっすらと濡れて震えていて。
体中に快楽が駆け巡り始めているのか、その白い身体が断続的にぴくり、と慄き、その度に甘い吐息がその唇から漏れてリョーマの耳を撫でる。
それは自分が彼にそうする時と同じ表情、そして仕草のはずだったが、それが今はとてつもなく美しく、そして淫らに映り、それを意識したリョーマの喉が低く鳴る。
「・・・あ・・・越前・・・」
・・・不意に喘ぎながら不二がリョーマを呼ぶと、空いている片手をリョーマの手へと伸ばし、その指を絡めてきた。
白い肌は今や桜色に上気し、自分の手に触れる不二の手がしっとりと汗ばんでいくのに彼の終わりが
近づいている事を悟ったリョーマはその表情を険しくした。
「あ・・・っ」
不意に乱暴に“その手”を引き剥がされ、かすれた声を上げた不二が、リョーマを見上げる。
その焦点の定まらない、熱に浮かされた瞳に見つめられ、リョーマの頭に血が上った。
「・・・っ!」
掴んでいた不二の手をベッドへと押さえつけたリョーマは、その勢いのままに身体を不二へと進める。
「・・・っ、あ!」
・・・慣らされていた身体とはいえ、激しい勢いそのままにリョーマを受け入れた不二は悲鳴のような
声を上げ、身体をしならせる。
「・・・・っ」
でもその熱が自分の内部に完全に収まりきった感覚に、餓えていた物がようやく満たされた事を感じ取り、
満足げに吐息を漏らした不二は、自分を支配する熱を逃すまいとするようにその足を彼の腰へと絡めると、
中をきつく締め上げる・・・
「せん・・ぱっっ・・・!」
その“歓迎”を何とかやり過ごしたリョーマは、大きく息を吐き出すと、不二の身体を抱きしめた。
「ひとりでイこうとするなんて・・・ずるいよ・・・」
今度は自分の指を不二の昂ぶりへと絡めながらリョーマは不二に囁いた。
「だって・・・君が・・・意地悪・・・するからでしょ?」
その熱に浮かされたような声に、不二も同じように熱い声で途切れ途切れに返して。
「・・・ね・・・」
「・・・ん・・・」
小さく呟いて自分を見上げた不二にリョーマは淡く笑って、すっかり上気したその頬に唇を落とすと恋人の要望どおり、そして自分の欲望をかなえるべく身体を動かし始めた・・・
身体を支配する心地よい倦怠感。しかし今日は少しばかり度が過ぎたようだ。
誰もいないからよかったようなものの、大きな声を上げすぎた喉と、無理な体勢を取らされた身体が痛くて。
少しばかり調子に乗りすぎたようだ、と不二は苦笑し、傍らに目をやる。
「・・・越前・・・」
自分の肩に額を押し当てリョーマは目をつむっていた。
そんな彼に呼びかけて軽く彼の体を揺すぶれば、瞼がぴくり、と揺れ、うっすらとその瞳が開かれる。
「ん・・・?」
首裏に差し入れた左腕。その指先が思い出したように不二の髪を撫でだして。
でもそれも彼を覆う眠りに滞りがちになる。
「ねぇってば?」
・・・いつもであれば笑ってそのままにしておく不二だが、今日は少しばかり意地悪に彼の身体を揺すぶり続ける。
その行為に気だるげな声と共に再びその目を薄く開いたリョーマに、不二は気になっていたことを口にする。
「何であんな事言わせようとしたの??」
「あんな・・・事?」
「忘れたの?・・・随分こだわって僕をいじめたくせに。」
「・・・あ」
不二のその言葉にリョーマの目がようやくはっきりと開く。
「・・・いいじゃん、別に訳なんて。」
「ダメ。」
不二の肩から顔を起こし、渋い顔をして言葉を濁そうとするリョーマを不二は軽く睨んで。
「あんな恥ずかしい事までさせられたんだから聞く権利はあると思うけど?」
「・・・・・」
自分が勝手にやったことじゃん・・・と喉元まで出かかったが、それに目を奪われ、挙句の果てに見境なく
突っ走ってしまった自分としてはそうも言いにくい。
「・・・さっき桃先輩と話してたっしょ?」
ややあってリョーマは渋々といったように口を開いた。
「聞いてたの?」
そんなリョーマに軽く目を見開いて不二が問いかける。
「・・・あんたの声がところどころ聞こえただけだけど。」
そう言ってリョーマは軽くため息をついて天井を見上げる。
・・・水呑み場にいる二人の姿を見かけたのは、部活中の小休止にクラブハウスにタオルを取りに行った帰りのことで。
二人は何やら話し込んでいる様子で・・・というより桃城が一方的に不二に話していて、不二がそれを聞いている、といった感じで。
声をひそめているのと、こちらの距離が離れているのとで、桃城の声はほとんど聞こえない。むしろ、彼には珍しく深刻そうな表情を
しているのが気になって彼の声にさほど注意を払っていなかったというのが正しいのか。
・・・と、不意に桃城が俯き、肩を落とした。
不二はそんな彼の頭をまるで子供にするように撫でてやり、何事かを話しかけ始める。
こちらもほとんど何を言っているのかわからなかったが、ふとした偶然か、聞き耳を立てていたためか、風に流されて聞こえてきたひとつの言葉にリョーマはどきりとする・・・
「・・・で、何が聞こえたの?」
「・・・」
その質問には答えず、不二の首裏から手を抜くと、そのまま彼に背中を向けてしまったリョーマ。
その背中を軽く目を見開いて見つめ、不二は何事かを考えていたが、やがて何かを思いついたのか、ふ・・・と口元をほころばせる。
「・・・そういう君、好きだよ・・・」
「!」
「・・・君が聞いた言葉、そんなんじゃなかった??」
驚いたような顔をして振り返ったリョーマに不二はちょっと笑う。
「・・・もしかして気にしてる?」
「・・・オレ、何も言ってないっすよ?」
「言ってなくっても態度に出てる。」
中途半端にこちらを向いたままのリョーマの肩に手をかけて、よいしょ、とばかりにその身体を仰向けにすると、不二はその胸元に
頭を乗せ、上目遣いに彼を見上げる。
「そう顔に書いてあるけど?」
「・・・・・」
・・・確かに自分の耳に聞こえたのはその言葉。
桃城の頭を撫で、優しい目で彼の事を見つめつつそう言った不二。
何でそんな事を彼に・・・?そう言いたいのを何とかこらえ、リョーマはそんな不二を軽く睨む。
「・・・ちょっと割に合わない話だなぁ・・・」
そんなリョーマに軽くため息をつき、そう呟くと不二は苦笑する。
「桃には内緒にしておいてくれ、って言われたけれど・・・」
そう言って不二は何故かいたずらっぽい瞳でリョーマを見上げる。
「実は桃にね、相談されてたんだ。」
「・・・」興味なさそうなふりを装っていながらも耳は傾けている様子のリョーマに不二のいたずらっぽい瞳の色はなお増して。
「桃、好きな人がいるっていうんだ。それって誰だと思う?」
「・・・さあね。」
「君だって。」
「・・・え?」
「だから君が好きなんだ、って。」
「・・・・・」
いきなりそう投げられた言葉に驚いたように目を見張ったリョーマに不二がからかうように笑う。
「・・・どうなの?越前君としては??」
「どう・・・って言われても・・・」
リョーマはそんな不二をじろり、と見て、ふう、とため息をつく。
「・・・あんまり嘘言わないで下さいよ。先輩?」
「・・・え?」
「あの人が・・・桃先輩が見てるのは違う人でしょ?」
しごく冷静にそう言ったリョーマにおや、というような顔をする不二。
「あの人結構ストレートっすから、見てればわかりますよ?」
そんな不二にリョーマが言葉を重ね、皮肉げに笑う。
「不二先輩・・・ってわけでもなさそうっすけどね?」
「・・・へぇ。」
そのリョーマの言葉に不二が感心したように声を上げる。
「結構君って鋭いんだ。」
「どうも。」
「・・・でもね、全部嘘ってわけじゃないよ。」
そう言いながら不二は自分の髪に触れていたリョーマの手に自分の手を重ねる。
「桃が君を好きだったってのは本当みたいだし?・・・でも」
さっきの口ぶりから言うとそれ、君も気付いていたみたいだね?そう問い掛けてリョーマを見れば、彼は少々気まずそうに視線を逸らして。
「・・・でも、最近気づいたんだって。」
そんなリョーマに淡く笑うと、不二は自分の髪を弄ぶ彼の指を自分の指に絡めてゆっくりと口を開く。
「・・・ホントに好きなのは君じゃないんだって事に。」
“それに気付いたら、そいつの事で頭いっぱいになって・・・少し前までは別の奴が好きだったのに・・・こんなの・・・変すかね?“
今までのリョーマへの思いを吐露した後、いつになく真剣な面持ちでそう尋ねてきた桃城。
一歩間違えば恋敵だったかもしれない彼が、これまた恋敵になったかもしれない自分に恋の悩みを打ち明ける・・・そんな桃城の屈託のなさに戸惑いながらも、自分の軽薄さをしきりに気にする彼の真っ直ぐさがいじらしく思えて。
それは決して自分が持たない、いわば少しばかり憧れる感情で。
もし・・・桃城が彼に恋したままだったらどんな風に彼を愛したのだろう・・・
そんな事を考えていた自分を不意にその腕が深く抱き寄せる。
「越前・・・?」
「・・・オレはあんたから離れる気、ないっすけど?」
自分の髪に頬を埋めつつそう呟いたリョーマに不二は驚いたように目を見開く。
「・・・そう?」
素っ気なくそう返しながら、リョーマの肩に頬をすり寄せた不二。
その口元にあるのは常に浮かべている微笑みとは違う、心からのそれ。
「でも・・・ますますわからなくなったな。」
「何が?」
「何が・・・って、君、とぼけるの上手いね。」
リョーマの胸から顔を上げ、不二は軽くため息をつくとその傍らに肘をつく。
「桃の事がわかっていたのなら、妬いていたんでもないんでしょ?・・・だったら・・・」
と、言葉の途中でリョーマが身体を起こし、再びぷい、と背中を向けた。
「?越前??」
「・・・」
「ねぇ、越前ってば。」
「・・・・・」
自分に背を向け、すっかり黙りこくってしまったリョーマに、不二は戸惑ったように眉を寄せる。
「・・・悪いすか?・・・妬いて。」
「・・・え?」
ややあって返ってきたのは投げ出すような言葉。
「・・・好きの意味が違うにしたって、あんたが他の人間にあんな顔してそんな事言ってたら・・・
悔しいに決まってんじゃん。」・・・何よりも大人でありたい部分なのに、何よりも子供である部分を曝け出してしまう。
そんな自分に苛立ちを隠せず、リョーマの口調はこの上ないほどぶっきら棒になる。
「・・・越前・・・」
「・・・オレはあんたにめったにそんな風に言ってもらえないのにさ・・・」
・・・まるで子供そのもののリョーマの拗ねた口調に軽く目を見開いた不二だったが、やがてゆっくりとその口元に笑みが宿る・・・
「・・・どうでもいい人とこんな事出来るほど器用じゃないんだけど?」
背後からふわりと柔らかくリョーマを抱きしめて不二がそう囁く。
「・・・ちゃんと君の事・・・思ってるから・・・」
桃城に比ぶるべくもないけれど、でもせめてこの瞬間だけは素直でいたい。
そう思いながら、ぎゅっと彼の背を抱く手に力を込める。
「・・・愛してる・・・」
「!」
耳元で小さくそう落ちた言葉に、リョーマは自分を包む不二の腕越しに彼を振り返れば、そこには少女のようにはにかんだ顔があって。
「そんなに・・・見ないでくれるかな?」
そんな自分を凝視するリョーマに不二は照れたように呟き、そのまま彼に背中を向けようとする。
しかしそうはさせないとばかりにリョーマは不二の肩を掴み、彼を組み敷く。
先ほどの激しすぎる睦言の名残か、それとも今言った言葉に対する照れからか腕の下の不二はうっすら頬を赤らめていて。
「ちゃんとオレ見て?」
間近くなった彼の視線から顔を背けようとしたが、彼にそう囁かれ、不二は抗いきれずに正面からリョーマの顔を見つめる。
「オレも、誰よりもあんたの事・・・好きだよ。」
そう言って自分を見つめる彼からは、先ほどの子供っぽい表情は消えていて。
「・・・愛してる・・・」
精悍な男の顔で低く甘くそう囁かれ、軽い目まいを覚えた不二はそっとその目を閉じる。
そんな不二に、気持ちの昂ぶりのまま奪うように口づければ、不二もそれに応えて自分の唇を貪るように受け入れて。
忙しない息遣いと、濡れた唇が立てる音。絡める舌の官能的な動きに、リョーマの身体の中にまた持て余すように熱い熱が湧き上がる・・・
「・・・まだ、足りないの?」
その“様子”を悟った不二が、ほんのりと赤く染まったその瞼を開け、吐息混じりにリョーマに問いかける。
「・・・あんたが誘うからでしょ?」
「誘う・・・って僕は何もしてな・・・」
そう言いかけた不二の唇に今度は軽く口づけたリョーマが彼を覗き込む。
「もう一度あんたの“あの顔”が見たい・・・」
「!」
「オレしか知らないあんたの顔、見たいんすけど・・・」
そう言って不二の下肢を膝で割りこめば、太ももに当たる不二自身も少し反応していて。
欲情しているのは自分だけでなかった事が嬉しくて、リョーマは“それ”を意識させる為にわざと太ももをゆっくりと動かす。
「・・・ダメ?」
「・・・っ、もう。」
眉を寄せ、その刺激をやり過ごすと、不二はリョーマを軽く睨む。
「ダメも何も最初から君、引く気ないでしょ?」
「・・・まぁね。」
リョーマはそう言うと不二の頬を両手で包むように触れて。
「あんたに対して、欲しい気持ち、我慢なんてしたくないから。」
「越前・・・」
「それに・・・あんたにも我慢させたくないしね・・・さっきみたいに。」
「・・・馬鹿・・・」
そう言って自分に折り重なってくるリョーマの背中をしっかりと抱きしめると不二は幸福そうに目を閉じた・・・
Fin